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※この記事では『ふつうの軽音部』第11巻までに登場する楽曲とライブの雰囲気に触れます。勝敗や人物関係の決定的な変化など、大きなネタバレは避けています。
クワハリさん原作、出内テツオさん漫画の『ふつうの軽音部』を、紙の単行本で第11巻まで読みました。
本作の面白さを語るうえで外せないのが、実在する邦ロックの使い方です。曲はライブを盛り上げるBGMではなく、登場人物が自分の言葉では伝えられない感情を託すものとして選ばれています。
一番好きなキャラクターは鳩野ちひろです。初心者だったちひろが何を歌い、その歌が誰に届いたのか。第11巻までの変化を、特に印象に残った5曲から振り返ります。
実在する楽曲が物語そのものになるバンド漫画
バンド漫画では、オリジナル曲や演奏技術の成長が見せ場になることがあります。『ふつうの軽音部』は、すでに世の中にある楽曲を高校生たちが選び、コピーして演奏する作品です。
選曲には、その人物が普段聴いている音楽、他人に見せたい自分、言葉にできない本音が表れます。同じ曲でも、誰がどの場面で歌うかによって意味が変わります。曲を知っていれば記憶の中の音を重ねられ、知らない曲なら漫画を入口に聴きにいけます。
andymori「everything is my guitar」|弾けなくても演奏する原点
第1巻で特に印象に残るのが、ちひろがandymoriの「everything is my guitar」を一人で演奏する場面です。
この時点のちひろはギターを思いどおりに弾けず、校内ライブのオーディションにも落ちています。それでも誰もいない視聴覚室で、今できる演奏を続けます。
上手になってから音楽を始めるのではなく、弾けない今もギターを鳴らす。その姿を見た幸山厘が、ちひろの歌へ強く引きつけられます。格好悪くても歌わずにいられないという、ちひろの原点が表れた曲です。
あいみょん「君はロックを聴かない」|初ライブだから残る未完成さ
第2巻では、ちひろたちが初めてライブへ出演し、あいみょんの「君はロックを聴かない」を演奏します。
恋と音楽が近い距離にある曲ですが、初ライブは思い描いたようには進みません。本作は、演奏が始まった瞬間に初心者を別人のように格好よく見せず、好きな気持ちだけでは演奏を完成させられない厳しさを描きます。
失敗したから音楽が終わるわけでもありません。ちひろは河川敷で弾き語りを続けます。初ライブの未完成さが、その後の練習を必要とする理由になっています。
ELLEGARDEN「ジターバグ」|“はーとぶれいく”がバンドになる文化祭
第4巻の文化祭で、“はーとぶれいく”が演奏するのはELLEGARDENの「ジターバグ」です。
疾走感のあるロックナンバーを、ちひろ、厘、内田桃、藤井彩目の4人が鳴らします。4人は最初から同じ目的を持って出会ったわけではなく、それぞれの思惑を抱えたまま同じ曲へ向かいます。
運命的な仲間との結成とは少し違い、関係が完全にまとまっていなくても、演奏している数分間は同じ方向を向ける。その現実的なバンドの始まりが、この文化祭ライブにはあります。
東京事変「閃光少女」|今を歌うハロウィンライブ
第7巻のハロウィンライブで、“はーとぶれいく”は東京事変の「閃光少女」を演奏します。
文化祭を経験した4人は、同じバンドとして少しずつ形になっています。しかし、部内の人間関係や各自の迷いまで解決したわけではありません。それぞれが抱えてきた感情がライブへ持ち込まれます。
曲が上手に再現されたかだけでなく、ステージへ上がるまでに何を見て、誰に何を伝えようとしているのかが重要です。今この瞬間を逃さないように鳴らす曲と、ちひろのむき出しの歌い方が重なります。
忘れらんねえよ「アイラブ言う」|11巻で歌が告白に変わる
第11巻の合同ライブで、ちひろたちが演奏するのが、忘れらんねえよの「アイラブ言う」です。
ちひろは水尾への気持ちを抱えたままステージに立ちます。普段の会話では整理できず、自分でも持て余していた感情が、曲を通して一気に外へ向かいます。
曲の力を借りなければ叫べない不器用さが、ちひろらしく見えました。第1巻では弾けないギターを一人で鳴らしていた彼女が、第11巻では自分の感情をバンドの音に乗せ、会場にいる人たちを揺さぶります。
技術で上回るバンドが同じライブにいても、ちひろの歌には別の強さがあります。自分の格好悪さまで隠さず、本当に抱えているものを歌へ変える強さです。
曲を聴いてから読み返すと表情の意味が変わる
曲を知らないままでも人間関係とライブの熱を楽しめます。一方で、公式MVで原曲を聴いてからページへ戻ると、選曲の意味や登場人物の表情が違って見えます。
漫画から曲を知り、曲を聴いたあとで漫画を読み返す。物語と現実の音楽を行き来できることが、オリジナル曲を中心にしたバンド漫画とは異なる楽しみ方です。
『ふつうの軽音部』はこんな人におすすめ
- 邦ロックが好きで、選曲の意味まで楽しみたい人
- 漫画をきっかけに新しい曲と出会いたい人
- 天才ではない主人公が音楽を続ける物語を読みたい人
- 演奏と人物の感情が結びつくライブシーンが好きな人
- 曲を聴きながら漫画を読み返したい人
まとめ
『ふつうの軽音部』では、実在する邦ロックが登場人物の感情を伝える言葉として使われます。選曲を追うだけでも、ちひろが弾けない初心者から、自分の歌で会場を動かすボーカルへ変わっていく過程が見えてきます。
第11巻まで紙で読んで、一番好きになったのはちひろでした。「everything is my guitar」で見えた音楽への執着が、「ジターバグ」や「閃光少女」を経て、「アイラブ言う」で誰かへ向かう歌に変わります。
演奏の上達やバンドの成功だけでなく、既存の曲を借りて初めて言える本音を描く作品です。公式MVを見てから、もう一度ページへ戻りたくなるバンド漫画でした。


